2006年厚生労働省が精神的ケアの充実を目指すと発表し、カウンセラーの資格を介護の中で生かそうと思っていた私は回想法を知りました。
まだ回想・海草?と聞きなおされるほど知られていませんでした。
回想法とは
1963年アメリカの精神科医ロバート・バトラーが「高齢者が過去を思い出す活動の良さ」を発見して始まったものです。回想法とは過去を思い出す行為や過程を利用して、本人のQOLを高める手法です。
思い出を今と未来に生かす。
回想法の効果
元気な高齢者への効果
- 自分の価値を発見し、自分と生きがいを取り戻す(年を取って何も出来ない、役に立つことが無い、生きがいが無くなる)
- 社交性を促進し新たな人間関係を促進させる
- 世代間交流、世代間伝承(和裁・手作りうどん等)
- 受動的な人間関係を逆転させる(話す・教える)
認知症高齢者への効果
- 情緒が安定する
- 表情が豊かになり笑顔が増す
- 発語が増える
しっかり自分の話を聴いてくれる人が居ると言う心地よさ自分にスポットがあたると言う意識を自覚する - 他への集中力が増す
他の人の話を聴く姿勢
徘徊などの行動障害が軽減する場合がある
「ここ」が「楽しい場所」である事 - 対人交流の機会が増え、なじみの関係が作られる
職員への効果
- 観察力がアップし、対象者を良く知る事が出来る
問題行動の原因が分かったりする(帰宅願望のある方の帰りたい家を知る) - 日常の接し方の具体的な方法が分かり、声掛けが上手くなる
コミュニケーションの取り方 - 高齢者の力を再発見し、高齢者の生き方に対する敬意が深まる
介護家族への効果
- 家族の歴史を再確認する
- 親の生き方、時代を知る
家族写真・食べ物・言葉(トイレ → 便所 → 厠)
道具(中華鍋 → シナ鍋 ・ IHコンロ → ガスコンロ → マキのかまど) - 世代間交流の自然な進展が図れる
孫と話す
お話を聴くポイント
- 話の内容に関心を持つこと
- 気持ちを理解し、それに寄り添う事
- 批判しない事
- 優しい語りかけをする事
- 聴き手は巻き込まれないように自分自身でいる事
- 守秘義務がある事を伝え、それを守る事
回想法の行い方
個人回想法
1対1でお話を聴く
グループ回想法
10名以内のグループを作り、リーダー(促進者)、コ・リーダー(共同促進者)がファシリテータとなってテーマやそれに関係する道具を使って参加者の人生の歴史を展開していく
共通の話題をテーマに選ぶこと
- 地方で違うお雑煮
- 子供の頃の遊び
- お漬物の種類、漬けかた
約束事を始めに伝える
- 会には終わりの時間がある事
- 守秘義務がある事
実践回想法
私の回想法実践 1
父は81歳で認知症の症状が始まり、94歳で亡くなりました。
当時は、介護保険も無く、在宅ケアが当たり前のことでした。3人の娘に(私達)「あんたは誰?」と尋ねます。
白髪交じりの姉は「娘でしょ」と怒る。名前を言っても「そんな名前の娘が居たがおばあさんじゃない」と言う。
私は父とゆっくり話してみる事にしました。
「今おいくつですか?」
「42歳ぐらいかな」
父の回答を踏まえて父の現在の状況をよく考えてみました。
認知症の父にとって今は、
- 大人の娘はいない
- シャワー付きトイレも無い(何時もトイレがびしょびしょになっているので)
- シャワー浴もダメ(片までお湯に入らないと叱られるよと言う)
- 女性の前では裸にならない。私も女、最後に施設で入浴を拒否したのはこの事)
- 後ろから声をかけない。戦争を体験した父は背後に注意する)
- 外出(42歳の父は元気、毎日出かけて時々戻らない)(足腰を鍛えないと動けなくなって皆に迷惑をかけると思っている)
- 徘徊老人信号・横断歩道の無視(一緒に歩いて何度説明をしても分かってもらえない田舎育ちの父にとって車がほとんど通らない道は自分が注意しているのにぶつかる車が悪いことになる)
- 戦争の話はしない
- 子供の頃(貧しく11人の兄弟姉妹は奉公に出されたこと。どこにいてどんな生活をしているのかも分からない。母親は多分乳がんだった。変色し、痛みがあったと思うが末の子に乳房を含ませていた。)
明治生まれの父の半生を聴き、私なりに想像して父に接してきた心算だが私の今の活動に多くの影響を与えてくれたと思います。
私の回想法実践 2
お付き合いの長いAさんに認知症の症状が表れました。
「外出先でよその人の靴を履いてしまって夫にひどく怒鳴られた」
常日頃から厳格な夫の叱責が原因でおかしくなったと思っている
「買い物に出たはずなのに何しに出たのか分からなくなる」
「何を買うのか忘れる」
「帰る道が分からなくなる」
「洗濯しているのを忘れる。干してあるのを忘れる」
「お湯を沸かしているのを忘れる」
「食事作り、メニューが思い出せない」
「仲良しだった兄弟姉妹の顔が思い出せなくなったら・・・」
不安への対応策を1つ1つ話し合いながら考えました。
兄弟姉妹を忘れてしまう不安には思い出アルバムを作る事にしました。
以前講習会を行っているので参考にしながら日本地図上に旅行社のチラシ、家族写真を加工して、お聞きした話をコメントとして入れました。とても大切な「私の宝物」と笑顔で言われ私も嬉しかったです。
ホームヘルパー1級の資格を持ち、2006年のたんとぽけっとの介護アドバイザーとして、豊富な在宅介護経験と介護職経験から高齢者と心を通わせるためのヒントを伝授。